精神保健と法律
精神衛生法(1950):
戦前の精神病者監護法と精神病院法を廃止して、新憲法のもとで、精神障害者に対して、適切な医療・保護の機会を提供することを目的とした。昭和25年5月1日に公布施行された。この法律により、戦前から認められていた私宅監置が廃止された。
精神衛生法の特徴:
1.精神病院の設置を都道府県に義務づけたこと。また、都道府県知事は、都道府県が設置する精神病院に代わる施設として指定病院を指定するとした。
2.一般人からの診察及び保護の申請、警察官、検察官、矯正保護施設の長の通報制度を設けた。
3.保護義務者の制度を設けた。
4.自傷他害のおそれのある精神障害者の「措置入院」制度を設け、その費用は公費で負担することとした。
5.保護義務者の同意による入院(同意入院)、精神障害の診断のための仮入院制度を設けた。
6.精神衛生審議会を新設して、関係官庁と専門家との協力による精神保健行政の推進を図った。
7.精神障害者を拘束することが必要かどうかを決定するため精神衛生鑑定医制度が設けられた。
精神衛生法改正(1960):
ライシャワー事件が昭和39年3月に起こり、精神衛生法改正のきっかけとなった。この事件は、ライシャワー駐日アメリカ大使が統合失調症(精神分裂病)の少年に刺されて負傷したものである。これにより、日本の精神障害者の不十分な医療体制が大きな社会問題なった。その結果、昭和40年6月に精神衛生法の一部改正が行われた。
精神衛生法改正の特徴:
1.保健所を地域における精神保健行政の第一線機関として位置づけ、精神衛生相談員を配置できることとし、在宅精神障害者の訪問指導、相談事業を強化した。
2.保健所に対する技術指導援助などを行う各都道府県の精神保健に関する技術的中核機関として、精神衛生センターを設けた。
3.在宅精神障害者の医療の確保を容易にするため、通院医療費の2分の1を公費負担する制度を新設した。
4.警察官、検察官、保護観察所長および精神病院の管理者について、精神障害者に関する通報・届出制度を強化した。
5.措置入院制度の手続きについて、
1)病院管理者に患者が無断退去した場合、警察へ届出義務を課した。
2)自傷他害の程度が著しい精神障害者については、緊急措置入院制度を設けた。
3)入院措置の解除規定、守秘義務規定を設けた。
精神保健法成立(1988):
精神衛生法成立の契機になったのが、昭和59年(1984)に起きた宇都宮病院事件であった。この事件で、精神科医療で無資格者による診察やレントゲン撮影が行われたり、看護助手らの暴行により患者が死亡したり、医師や看護婦等の医療従事者の不足する我が国の精神科医療の実態が浮き彫りにされた。精神科医療の根底を揺るがす事件として、国内のみならず外国からも我が国の精神医療体制の改革の要求が高まった。そのような状況下で、昭和62年9月に法改正が行われ、精神保健法と名称を変えた。昭和63年7月から施行された。
精神保健法の特徴:
1.国民の精神的健康の保持増進を図ることも法目的とし、法律の名称を精神保健法とした。
2.精神障害者本人の同意に基づく任意入院制度を設けた。
3.入院時に書面による人権尊重や権利等の告知制度を設けた。
4.精神衛生鑑定医制度を精神保健指定医制度に改め、精神保健指定医の資格と役割を明確にした。
5.入院の必要性や処遇の妥当性を審査する精神医療審査会制度を設けた。
6.精神科救急に対応するため、応急入院制度を設けた。
7.精神病院に対する厚生大臣等による報告徴収、改善命令に関する規定を設けた。
8.精神障害者の社会復帰の促進を図るため、精神障害者社会復帰施設(精神障害者生活訓練施設および精神障害者授産施設)に関する規定を設けた。
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)成立(1995)
昭和63年7月より施行されていた精神保健法は5年後の見直しで、平成5年6月に一部改正がなされ、平成6年4月から施行された。同じ時期の平成5年12月に、障害者基本法が成立した。それにより、精神障害者も身体障害や知的障害者と同様に、施策の対象となる障害者の範囲に明確に位置づけられた。また、障害者基本法の基本理念として、「社会を構成する一員として、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会を与えられる」ことが示された。すなわち、これまでの精神障害者の保健医療施策に加えて福祉施策を充実させる必要性が高まってきた。このような経緯で、平成7年5月に精神保健法が改正され、法律の名称を変え、精神保健および精神障害者福祉(精神保健福祉法)に関する法律となった。平成7年7月から施行された。
精神保健福祉法の特徴:
1.精神障害者の社会復帰等のための保健福祉施策の充実。
1)法体系全体における福祉施策の位置づけの強化。
(1)法律名の変更:「精神保健法」から「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に変更した。
(2)法律の目的:これまでの「医療及び保護」、「社会復帰の促進」、「国民の精神的健康の保持増進」に加えて、「自立と社会参加の促進のための援助」という福祉的要素を明確にした。
(3)「保健及び福祉」の章を設けた。
(4)精神保健福祉センター、痴呆精神保健福祉審議会、精神保健福祉相談員と名称を変更し、従来の業務に福祉の業務を加えた。
2)精神障害者保健福祉手帳制度の創設。
3)社会復帰施設、事業の充実。
(1)社会復帰施設として、@生活訓練施設(援護寮)、A授産施設、B福祉ホーム、C福祉工場の4施設類型の規定を法律上明記した。
(2)通院患者リハビリテーション事業の法定化(社会適応訓練事業)。
4)正しい知識の普及啓発や相談指導等の地域精神保健福祉施策の充実、市町村の役割の明示。
2.より良い精神医療の確保等。
1)精神保健指定医制度の充実。
(1)医療保護入院等を行う精神病院では常勤の指定医を置くこととする。
(2)指定医の5年ごとの研修の受講を促進するための措置を講じる。
2)医療保護入院の際の告知義務の徹底。
人権保護のための入院時の告知義務について、精神障害者の症状に照らして告知を延期できる旨の例外規定に、4週間の期間制限を設ける。
3)通院公費負担医療の事務等の合理化。
(1)認定の有効期間の延期(6ヶ月から2年へ)。
(2)手帳の交付を受けた者については通院公費の認定を省略。
3.公費負担医療の公費優先の見直し(保険優先化)。
「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」改正(1999)
法律改正の特徴:
1.精神障害者の人権に配慮した医療の確保に関する事項。
1)精神医療審査会の機能強化。
(1)精神医療審査会の委員数の制限(5名から15名)の廃止。
(2)精神医療審査会の調査権限として、従来の関係者からの意見聴取に加え、帳簿書類の提出命令等を追加した。
2)精神保健指定医の役割等の強化。
(1)現行の指定取り消し処分に加えて、中間処分として職務の一時停止処分を追加した。
(2)精神保健指定医の診療記録記載義務に、医療保護入院を必要とするかどうかの判定を行った場合等を追加した。
(3)不当処遇に関する精神病院管理者への報告など、処遇の改善に向けた努力義務を明記した。
3)医療保護入院の要件の明確化。
医療保護入院の対象者が、精神障害によりその同意に基づいた入院を行う状態にないものと判定された者であることを法文に明記した。
4)精神病院に対する指導監督の強化。
現行の改善命令等の加えて、入院医療の制限命令等の処分を追加した。
2.緊急に入院が必要となる精神障害者の移送に関する事項。
緊急に入院を必要とするにもかかわらず、精神障害のため同意に基づいた入院を行う状態にないと判定された精神障害者を、都道府県知事の責任により適切な精神病院に移送する制度を創設した。
3.保護者に関する事項。
1)保護者に過重な負担を課すこととなっている自傷他害防止監督義務規定を削除する。
2)自らの意思で医療を受けている精神障害者の保護者については、治療を受けさせる義務等を免除する。
4.精神保健福祉センターの機能を拡充。
1)通院医療公費負担や精神保健福祉手帳の審査、精神医療審査会の事務局などの業務を追加した。
2)社会復帰施設に、日常生活に関する相談、助言等を行う「精神障害者地域生活支援センター」を追加した。
3)在宅福祉事業に、精神障害者地域生活援助事業(グループホーム)に加え、居宅介護等事業(ホームヘルプサービス)、短期入所事業(ショートスティ)を追加した。
4)福祉サービスに利用に関する相談、助言等を、従来の保健所から、市町村を中心に行うこととし、保健所と都道府県が市町村を専門的、広域的に支援する仕組みとする。