生活の場と精神保健
生活の場=地域社会(家庭、学校、職場を含む)
1.家庭の精神保健
1)家族・家庭の機能と特徴
家族の定義:夫婦を中心とする近親の血縁者によって構成される小集団、最も基本的な集団、
「新しく生まれた子供の愛育的社会化と基本機能とする親族構造的小集団である」(山根)
2)人間の成熟と家庭
家庭とは:
(1)家族成員の精神的満足の達成;やすらぎの場所
(2)家族成員の「社会化」;養育の場所
個人の成熟に家庭・社会が必要(愛育的社会化)
3)家庭の機能:
(1)精神的・情緒的要求の充足 (2)生殖と性的要求の満足 (3)保護・育成・社会化 (4)物的要求を充足する経済単位(家計) (5)宗教的・儀式的機能●家庭の大切な役割に、子供の養育がある。すべての人は家庭で育まれ、人格の土台や生活上の習慣は家族と共に過ごしながら形成されていく。
●子供は、親からよい家庭環境を与えられる権利があり、親は子供が家庭生活を通して個性を伸ばし、優れた資質や能力を育んでいけるようにする責任がある。
「親には配偶者を選ぶ自由があるけれど、子供には親を選ぶ自由がない」(エレン・ケイ)
2.家族の動向と変化→家庭機能の弱体化
1)家規範の変化:
(1)近代化・都市化の影響;村落共同体からの独立、家の文化のゆらぎ
農村社会では伝統的な家制度を守ろうとする傾向が強い
家父長中心の権威主義的家規範
知識階層・都市生活者では夫婦単位の家概念の受け入れが多くなる
夫婦平等主義(共稼ぎ家庭、主夫の登場)
(2)家族意識の変化
家重視の家族(個人が家族の生活のために犠牲になるのが当然と考える)
↓
個人重視の家族(個人の生活を豊かにするために役立つ家族)
2)世帯の変化
(1)拡大家族から核家族へ移行(家父長中心から夫婦中心主義へ)
核家族世帯58.9%、単独世帯22.6%、三世代世帯12.5%(平成7年)
(2)少産化:合計特殊出産率 1.43人(平成7年)
(3)世帯の縮小:一世帯あたりの平均世帯人員数;2.79人(平成9年)
女性の高学歴化、社会進出にともなう晩婚化、少産傾向
(4)婚姻の減少と離婚の増加:1970年代になり日本人の婚姻率は減少傾向、
平均初婚年齢の上昇;夫28.4歳、妻25.7歳(1987,昭和62年)
1960年代以降、離婚率は漸増 家庭内離婚→離婚、 中高年夫婦の離婚が増えている。(5)高齢者世帯の増加:65歳以上の高齢者のいる世帯数の増加
(6)単身赴任家庭の増加
3.結婚と夫婦関係
1)家族の精神保健にとって、夫婦関係の安定が重要
父母を中心とした家族の親密な人間関係 温かい家庭の雰囲気:成長の土台となる「安心感」を与える2)家族間の情緒的欲求の充足は神経症や精神病の予防的意味を持つ
3)問題のある結婚
(1)親離れ、子離れが出来ていない
過度の依存、親の支配・介入
(2)未熟な夫婦関係
両価的(アンビバレント)な感情の起伏が大きい 自分だけが正しいと主張し、相手の立場を理解しない 依存性が強い4)結婚は、それぞれの男性性、女性性を生き、新しいパートナーとの最も親密な関係を確立させ、出生家族から精神的自立を獲得し、更に自律性と同一性を得て成熟していく過程である。
5)日本では、夫婦関係よりも親子関係によって人間的愛情関係が満たされていることが多い。そのため、子供たちが親離れする初老期の母親は、母親としての愛情を満たす対象を失い、空虚感・抑うつ感を強め、空の巣症候群に陥りやすい。
4.父母の役割
1)親の養育態度と子供の精神保健
両親の養育態度のゆがみ:両親の不仲、父性欠如、両親の過剰な対応、
放任、母親の過保護・過干渉
母親の育児放棄、放任、虐待問題(母性剥奪症候群)
2)現代社会と子育て
画一的社会と画一的教育の影響:落ちこぼれ問題
3)父性と母性
父性・母性の回復
男性性:論理・思考・規範・正誤の判断
父性の権威、力、ルールや規範
女性性:感情・独占・甘さ
母性のやさしさ、思いやり、人間愛、
4)わが国の現状と問題点
(1)父親不在:母らしい父、「父なき社会」
(2)きびしい母親→過保護、過干渉
(3)父性と母性の問題:不登校現象、大学生の大量留年、職場拒否、思春期の拒食症、
無気力症、家庭内暴力、近親相姦など
(4)役割の再規定の必要(共働き)
(5)核家族化の問題
5.家庭における精神保健上の問題
1)家庭内暴力
思春期の子供から親に向けられる暴力。 男女とも13歳から17歳に多い。 男子に多い。 家庭内暴力は増加傾向にある。 暴力の内容:家財の損壊、家族への暴力。 暴力の対象:母親が最も多い→背景に母子関係の病理(1)狭義の家庭内暴力:家庭内暴力のみ(家庭外では優等生)
子供の暴力に対する危機介入的対応 背景にある家族の問題、母子関係の問題への対応(2)広義の家庭内暴力:登校拒否、神経症・精神病を伴う。
随伴する症状の治療が必要。
2)児童虐待
児童虐待(親の側から)
被虐待児症候群(子供の側から)
児童虐待は増加している。
児童虐待の内容:
(1)身体的虐待
(2)心理的虐待
(3)非養育的虐待
(4)性的虐待
虐待する親の問題:
●幼少期に親から愛された経験がない。
●家庭内に多くの問題がある。
●体罰を適切なしつけの手段と思っている。
●統合失調症やアルコール依存症を持つことも多い。
●家族が隠したり、救急外来の医師が見逃したり届け出ないため発見が遅れることが多い。教師や保母が発見することもある。
被虐待児:不安、恐怖、攻撃性などの精神症状を持つ。
成長して親になると、自分の子供を虐待してしまう。
治療:虐待に対する危機介入的対応。
背景の親の問題及び家族の問題へ対応。
子供の保護:小児科病棟への入院、児童相談所の一時保護、乳児院や養護施設への入所、里親委託。
3)キッチン・ドリンカー
主婦のアルコール依存症
孤立した精神的葛藤を癒すための飲酒
短期間で依存が形成される。
家庭内に問題がある。
4)痴呆性老人や障害者を持つ家族の精神保健
痴呆老人や寝たきり老人の増加。
家族が介護に身体的にも精神的にも疲れる。
介護者の多くは、妻、嫁、娘などの女性である。
精神障害者を持つ家族:
急性期:症状に振り回される。
慢性期:社会復帰や親なき後の問題に悩む。
5)不登校を持つ家族の精神保健
不登校の子供を、「社会からの落ちこぼれ」と見なしてしまう。そのため、家族が混乱する。
母親は父親や親戚から責められ、更に混乱する。
母親は不登校の子供から家庭内暴力の対象となり、更に混乱する。
家族の態度:
自責的な家族→うつ状態
他責的な家族→学校批判
○登校刺激を避けてじっくり待つこと。
○良い点を見つけて誉める。
6)引きこもり
さまざまな病態水準の精神疾患を背景にして生じたもの。
自己防衛的に社会生活から撤退した状態。
緘黙、強迫、対人恐怖などの神経症症状を伴う症例。
親への暴力、過食と嘔吐、手首自傷などの行動化を示す症例。
精神病圏の症例、非分裂病圏の症例、発達障害圏の症例。